2015年度アジア研究教育ユニット第7回学際融合コロキアム

2015年度アジア研究教育ユニット第7回学際融合コロキアムの風景

「報告」アジア研究教育ユニット 学際融合コロキアム第7回

報告者:牧野雅子(KUASU研究員)
発表題目:「性暴力」研究の政治性
場所:KUASU多目的室
参加者:8名
日時: 2015年12月10日 13:00~15:00 

牧野氏は、まず性暴力と性犯罪の相違に関して実際的・法的な観点から説明を行う。この説明に基づき、「性犯罪」のみを扱う警察では必ずしも対処の対象とならない性暴力が放置されている現状が明らかになる。その上で、性暴力の視点に基づき被害の実情を捉える重要性が示される。

 次に、性犯罪の被害者に対する警察の取り調べにおいて犯罪事実の確認を行う際、男性の視点に基づく無遠慮な質問・詰問が行われる結果、二次被害の生じる現状が報告される。この際、男性を中心とする警察組織の構造的な問題が提示される。加えて、女性警察官であっても必ずしも女性を保護する視点で取り調べを行うわけではない事実、また女性警察官が取り調べを行う事実をもってあたかも問題が解決するかのような認識の拡大が、性暴力の撲滅に向けた方策立案を困難ならしめるという。同様の事態は裁判においても繰り返され、被害者は想起したくもない事実の確認を幾度も強いられることとなる。

 このような困難な現状を改めるため、牧野氏は加害者の心理の理解を第一の手がかりに挙げる。つまり、性暴力に至る加害者の心情に迫り、性暴力を是とする価値観の解体を目指す。殊に、牧野氏は一般男性が性暴力に対して第三者の立場から自分と無関係の事案を断罪する傾向に強い違和感を覚え、このような一般男性の心情が加害者の心情に通底する可能性が指摘される。

 これら現場での問題を指摘した後、牧野氏は性暴力被害者を一見救済するかに見える諸制度が、性暴力被害に対して社会が抱く旧来のイメージを固定化・強化することを通じ、逆に性暴力被害者を苦しめる構造を解説する。

 以上をふまえ、牧野氏は「社会構造」・「個別事件」・「被害者の内面」の3つの水準で目指すべき方向性を示し、発表を終える。

 以上が発表の概要である。この後、参加者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が展開された。特に、加害者に対する聴き取り調査が膨大な時間と手間を要する事実を知り、参加者は加害者の心理の一端に触れることの困難と意義を感じていた。

                        

 (文責:白崎 護)