2015年度アジア研究教育ユニット第8回学際融合コロキアム 

2015年度アジア研究教育ユニット第8回学際融合コロキアム の風景

「報告」アジア研究教育ユニット 学際融合コロキアム第8回

報告者:朴艶紅(アジア親密圏/公共圏教育研究センター教務補佐員)
白崎護(KUASU研究員)

発表題目:朴艶紅「現代中国における労災補償と法」
白崎護「投票行動におよぼすインターネット情報の影響―2013年参議院選挙の分析―」

場所:総合研究2号館地下1階第12演習室
参加者:9名
日時:2016年1月7日13:00~15:00

 今回は、朴氏と白崎氏の2つの報告が行われた。
 まず、朴氏の報告では、現代中国における労災補償と法、とくに出稼ぎ農民の労災補償訴訟について、広東省深セン市を事例に報告された。
 広東省深セン市では、宝案区と龍崗区の鎮村企業において、労働者(出稼ぎ農民)が機械の操作中に手足を切断する事故が相次いだ。労災被害者は、より高額な労災保険金を求めて、両区の社会保険局を相手に行政訴訟を起こすが、この訴訟を契機として、深セン市の「労災補償法制度」は、低給付で個人・家族負担のものから労災被害者の生存権を考慮したものへと変容することになる。「労災補償法制度」とはどのような法制度であり、どのような力学関係のなかで立法化・実施・変容していったのか、とくに形成メカニズムに焦点を当てて検討された。
 具体的には、計画経済体制から市場経済体制への転換といった社会背景等をふまえつつ、都市部における労災保険制度の沿革、および深セン市における社会保険のプール化改革、宝案区と龍崗区における労災補償のしくみ等について説明がなされた。そして、両区において「労災補償法制度」が低給付で個人・家族負担に依拠する制度へと設計され運営がなされたメカニズムについて、豊富なデータをもとに立法過程・法の施行過程・インセンティヴの問題を検討しつつ明らかにされた。
 報告の後、参加者からは多くの質問やコメントが寄せられ、活発な議論が展開された。

 次に、白崎氏の報告では、2013年参議院選挙の分析をもとに、政治・選挙に対する意識や行動に及ぼすインターネット情報の影響について報告された。
 白崎氏によると、2013年参議院選挙は、インターネットを利用した選挙運動を一部解禁する公職選挙法改正が行われた後の初めての国政選挙であった。インターネットによる選挙関連情報の収集は、有権者の政治・選挙に対する意識や行動にいかなる影響を及ぼすのか。この問いについて、「選挙法改正への期待感」と「投票行動」に着目して検討された。
分析に用いられたデータは、当該選挙に関する全国世論調査である「第23回参議院議員通常選挙全国意識調査、2013」である。先行研究や変数などについても詳細な説明が加えられた。そして、「選挙法改正への期待感」および「投票行動」のそれぞれについて、無党派層と自民支持層の双方から分析が行われ、インターネット利用が選挙法改正への期待感を大きく高める一方で、投票行動をやや抑制する効果を及ぼしていることが明らかにされた。前者の結果に関しては、「選挙法改正への期待感」の具体的な項目である若年層の投票率の向上、政治への関心の高まり、有権者と政治家との距離の縮小、政治や選挙の透明性の高まりのそれぞれについて、さらに詳細な考察も行われた。
選挙権年齢の18歳への引き下げなどが話題になっているため、インターネット利用と投票行動・意識との関係に関する報告は興味深いものであり、参加者からの質疑応答も活発に行われた。

(文責:川本彩花)