2015年度アジア研究教育ユニット第1回学際融合コロキアム

2015年度アジア研究教育ユニット第1回学際融合コロキアムの風景

 

報告者:小西鉄(KUASU研究員)
発表題目:ポストスハルト期インドネシアにおけるビジネスと政治のダイナミクス――1997‐2012年のバクリグループの経済権力の維持と政治的台頭に関する分析
場所:KUASU多目的室
参加者:10名弱
日時: 2015年6月4日 13:00~15:30

博士論文の口頭試問を間近に控えている報告者(小西氏)は、その準備段階として彼の研究テーマである、インドネシアのプリブミ(非華人系、土着系)ビジネスグループの経済活動と政治との関係について報告してくれた。1998年にスハルト政権が終焉を迎えるまで、主に華人系ビジネスグループがインドネシア経済に大きな影響力を与えていたものの、報告者は特に、2004年以降に台頭した、プリブミのビジネスグループである、バクリグループに注目してきた。これまで、東南アジア経済の根幹をなすアクターとして、華僑・華人は多くの研究者の注目を集めてきたが、報告者は2008年の世界金融危機にもそれほど大きな打撃を受けなかったインドネシア経済の中で、プリブミ・ビジネスグループがもつ政治経済の両方における影響力に焦点をあてる。

インドネシアにおいて、バクリグループが経済権力を維持することができたのは、政治における権力抗争のみならず、ビジネスにおける闘争にも打ち勝ってきた背景があるからではないのか、という報告者の仮説が打ち立てられ、議論がすすめられた。バクリグループは、プロフェッショナルな経営陣を導入するとともに、ファミリーメンバーを政治における主要なポストにも座らせ、ビジネス・ファミリーとして国家の政治経済で、確固たる地位を築きあげてきた。また、華人系ビジネスにおいては、実用主義が採用されるのに比して、プリブミのバクリグループにおいては、人的資本やコネを非常に重要視するという特徴を有しており、汚職やビジネス上のインフォーマルな人間関係を介して資源を調達し、経済的ないし政治的な地位を築きあげてきたとのことであった。報告者はこのようなバクリグループのファミリーを基盤としたビジネス展開と政治との関係を、“新興国での自由主義と民主主義の発展を阻害したビジネス・ファミリー”という表現で言い表し、近年、経済成長が著しい東南アジア経済と政治とのいびつな関係を、独自のアプローチで分析していた。

非常に興味深い研究発表であったことから、参加者から多様な質問とコメントが寄せられた。バクリグループの経営体制や主要ビジネスなどに関する質問から、研究手法に至るまで、数々の質問が提起された。特に、既存のグローバル化や自由化では説明のつかない、東南アジア政治経済のダイナミクスが垣間見え、新たな領域や理論化に貢献できる、有望な研究であるという積極的な評価もなされた。また、汚職やインフォーマルな人間関係に依存している政治体制から、どのように経済発展が導き出されうるのかという質問もあげられ、天然資源が豊富なインドネシアの地政学的特徴についても触れられた。そして報告者からは、インドネシア経済の実情は内向き志向であることが指摘され、同国においては少なくとも、新自由主義は机上の空論であるという説明も、参加者の知的好奇心をさらに触発した。

かなり時間をオーバーして質疑応答、コメントが参加者よりなされたが、第一回目の学際融合コロキアムにもかかわらず、各自の専門分野をこえて、非常に活発な意見交換が行われた。また、小西氏の報告と質疑応答を一時間以内に収めてしてしまうのが惜しいという参加者の意見により、急きょ、二番目に予定されていた林氏の研究報告は後日に延期された。

第一回目のコロキアムを経て、より有意義な意見交換をするために、発表要旨やパワーポイント資料等を事前に受け取っておきたいという参加者の意見が出された。学際融合としてのコロキアムを継続させていくために、今後はこのような事前準備にも留意し、第二回目以降のコロキアムも充実した研究報告と、活発な意見交流の場にしていきたい。

文責:辻本登志子(アジア研究教育ユニット、研究員)