2016年度アジア研究教育ユニット第5回学際融合コロキアム

2016年度アジア研究教育ユニット第5回学際融合コロキアムの風景

第5回KUASU学際融合コロキアム

報告者:猪股祐介(KUASU研究員)
発表題目:「満州移民研究における戦時性暴力の位置づけ」

場所:文学部東館アジア研究教育ユニット多目的室
参加者:4名
日時:2016年11月25日(金) 午後1~3時

今回は、猪股祐介KUASU研究員により「満州移民研究における戦時性暴力の位置づけ」について報告が行われた。報告では、なぜ満州移民引揚時の戦時性暴力に関する研究がなされてこなかったのか、という点に着目しながら、関連する先行研究の分析が行われ、猪股氏の研究成果とそれをめぐる議論、今後の課題について紹介された。

報告によると、これまでの満州移民に関する先行研究では、そもそも、引揚体験の研究蓄積が比較的乏しい。また、これまでの引揚体験記は、戦時性暴力の実態解明が不足している。戦時性暴力が研究対象とされてこなかった理由としては、満州移民の引揚げが、「引揚げの悲劇」として一括りにされ、副次的な問題として扱われてきたという問題点が指摘された。猪股氏はこれまでの研究で、郡上村開拓団、黒川村開拓団にインタビュー調査を行い、戦時性暴力について独自の実態解明に取り組んでいるが、事例研究の蓄積はまだ十分ではなく、解明すべき課題は多いと指摘された。

参加者からは、「慰安婦問題と満州移民引揚時戦時性暴力の違い(問題の構造や原因など)を論文ではどのように区別しているのか」という質問があがった。これは、これらの問題をめぐる構造(偶発性、組織性など)の違い、あるいは同一性がどこにあるのか、という点をどのように捉えるべきかという疑問である。これについては、解釈の仕方によって異なるところがあり、偶発的に見えても、実際には組織的・構造的な場合もあるのではないか、といった議論が行われた。

また、ヒアリング調査について、「証言者の高齢化という問題にどう向き合っているのか」という質問があがった。これについては、語りが定式化していること、証言の質が低下していくこと、など時間の経過に連れて調査が難しくなっていくという問題点が指摘された。

戦時性暴力をめぐっての解釈は一元的ではなく、猪股氏の研究をめぐっても異論反論があるという。しかし、これまで埋もれてしまっていた実態について通説とは異なる観点から研究を進め、議論の俎上にのせ、実態の解明を更に進めることには大きな意義があるのではないだろうか。

 

(文責 知足章宏)