2016年度アジア研究教育ユニット第3回学際融合コロキアム

2016年度アジア研究教育ユニット第3回学際融合コロキアムの風景

報告者:佐久間香子(KUASU研究員)
            松永歩(KUASU研究員)

発表題目:佐久間香子「時間と空間をまたいだモノ研究の可能性」
               松永歩「近代日本における地理的想像力の拡大と帰属意識の形成――教育に着目して」

場所:文学部東館多目的室

参加者:7名

日時:2016年8月2日14:00~16:00

  今回は、佐久間氏と松永氏の2つの報告が行われた。

 まず、佐久間氏の報告では、ボルネオにおけるツバメの巣の交易を対象として、時間と空間をまたいだモノ研究の可能性について報告された。佐久間氏によると、ボルネオで生産されるツバメの巣について、主要消費国は中国本土およびアジア各国の華人社会であり、18世紀中葉から交易が行われている。ボルネオでは、威信財獲得のための資源、および首長の葬儀など大規模儀礼のための財源としてツバメの巣が生産・取引されており、その商品価値は、見た目の美しさを重視して黒い巣<白い巣<赤い巣の順で高くなるという。このようなボルネオのツバメの巣であるが、20世紀後半以降は乱獲によって巣の収穫量が減少しており、2000年以降、巣の養殖が増加している。その様子について写真等を交えて報告がなされた。また、消費地である中国本土および華人社会の価値体系として、ツバメの巣は女性の健康・美容に効能があるとされ、娘や嫁が妊娠した時の贈物として消費されている。以上より、ツバメの巣は、生産地(ボルネオ)においても消費地(中国本土・華人社会)においても、生命(系譜・イエ)の継承という意味をもつことが明らかにされ、議論の総括が行なわれた。

 ボルネオの映像や写真等を用いての報告は、臨場感にあふれ参加者の興味をひくものであり、報告後の質疑応答も活発に行われた。

 次に、松永氏の報告では、近代日本における地理的想像力の拡大と帰属意識の形成について、教育、とりわけ沖縄における学校教育制度および明治期の修学旅行に着目して報告が行われた。松永氏によると、明治期の国家形成においては、言語の統一および国の範囲を把握することが重視されたため、学校教育では国語科および地理科の科目が重視された。とくに沖縄の学校教育においては、1880年に設置された会話伝習所が沖縄小学師範学校の始まりであり、いずれの小学校にも「会話科」という科目がおかれたという。これは内地(本土)にはない沖縄の学校教育の大きな特徴であり、同科目の教科書として使用された『沖縄対話』の内容についても詳細な紹介がなされた。また、明治期の修学旅行に関しては、史料の丹念な分析を通して、修学旅行および沖縄師範学校の修学旅行の歴史や目的、訪問地などについて明らかにされた。とくに生徒が記した修学旅行記の分析が行われ、その分析を通して、沖縄の生徒がみた内地の様子/内地の生徒がみた沖縄の様子がそれぞれ明らかにされるとともに、それをふまえて今後の課題が提示された。

 沖縄における近代化の模索に焦点を当てつつ、私たちに身近な学校教育や修学旅行の歴史に関する報告は興味深いものであり、引き続き参加者からは多くの質問やコメントが寄せられ、活発な議論が展開された。

(文責:川本彩花)